ミステリーを読む楽しみは、
ふつう、物語の中にあります。
犯人は誰か。
どんなトリックが隠されているのか。
驚くのは、あくまで ページの向こうの出来事です。
でも、歌野晶午という作家は、
少し違うところを狙ってきます。
驚かされるのは、物語ではなく、
それを読んでいる、自分自身のほう。
歌野さんの文章は、とても読みやすい。
会話のテンポがよくて、するする進みます。
むずかしい言葉も、複雑な設定もない。
だから、つい気をゆるめて読んでしまう。
その油断こそが、ミステリーの始まりです。
やさしい文章に手を引かれて、
気づけば、作者の手のひらの上にいる。
そして最終章で、
世界が、すっと入れ替わる。
ただ犯人が意外だった、という話ではありません。
「自分は、この文章をどう読んでいたのか」
感覚を、 きれいに裏返してくれる作家なんです。
たとえるなら、だまし絵に近いのかもしれませんね。
種は、最初から全部そこにありました。
一文字も、隠されてはいなかった。
なのに、見えていなかった。
見ていたのに、別のものだと思い込んでいた。
読み終えたあと、 思わず最初のページに戻ります。
同じ文章のはずなのに、 まるで違う顔で、
そこに並んでいる。
不思議なのは、その読後感です。
やられた、という悔しさより先に、
なぜか、すこし清々しい気持ちが残る。
これから紹介するのは、
その”裏返し”を、
別の角度から味わえる4冊です。
長編の大仕掛けから、
短編でひっくり返す切れ味まで。
どうぞ、気をゆるめたまま。
そのほうが、きっと深く、世界が変わります
それでは4冊紹介していきます。
【歌野晶午】おすすめ本4選
①『葉桜の季節に君を想うということ』 (文春文庫) ”大どんでん返し”の名作
素人探偵のもとに持ち込まれた霊感商法事件の意外な顛末、そして…。あなたは最後の一文まで、ただひたすら驚き続けることになる
BOOKデータベース
BOOKデータベースでも書けないぐらい、
すべての文章が⇒”大どんでん返し”に繋がってます。
ミステリ小説の中でもダントツの前向きな気持ちで
読み終えれます。
冒頭の文章に違和感をおぼえた人は
ラストまで一気に進んでください。
日本、トップクラスのトリックを
必ず味わって欲しいです。
②『Dの殺人事件、まことに恐ろしきは』 (角川文庫)
歌野晶午×江戸川乱歩――貴方を「非日常の興奮」に導く、超ミステリが誕生!
カメラマンの「私」が渋谷の道玄坂で出会い、交流するようになったのは、賢いが生意気な少年・聖也。その日も私は道玄坂のダイニングバーで聖也と話していたが、向いの薬局の様子がおかしい。駆けつけた私たちが発見したのは、カーペットの上に倒れた、上半身裸の女性だった。その後、私と聖也は事件を探り始める。しかし、私はあることに気がついてしまい、元の世界には戻れなくなっていた――(表題作)。
長崎港を訪れた「私」は、ビデオ通話で恋人に風景を見せながら旅する奇妙な男と出会う。男に誘われた路面電車での観光の車中、「私」はその恋人が、人気アイドルのヴィーナスだと明かされる。だが、2人の馴れ初めを語る男の話には、明らかにおかしな点があり……(「スマホと旅する男」)。
「人間椅子」「押絵と旅する男」「D坂の殺人事件」「お勢登場」「赤い部屋」「陰獣」「人でなしの恋」「二銭銅貨」……本格ミステリ界随一の騙しの達人が、江戸川乱歩の名作群を最先端テクノロジーでアップデートした、驚愕の翻案ミステリ短編集!”
BOOKデータベース
江戸川乱歩さんの怪奇的な雰囲気も
醸しつつミステリの要素も楽しめる。
『人間椅子』をおすすめします。
読み手の感情は変化していきます。
- 「うわー。そんな怪奇的な行動にでるの」
- ⇒「あっ。死んだ」
- ⇒「なんだ、そういう事」
- ⇒「えっ!殺した」
読み手の感情を揺さぶってくれます。
面白いですよ。
③『密室殺人ゲーム王手飛車取り』(講談社文庫)
〈頭狂人〉〈044APD〉〈aXe〉〈ザンギャ君〉〈伴道全教授〉。
講談社文庫
奇妙なニックネームの5人が、ネット上で殺人推理ゲームの出題をしあう。
ただし、ここで語られる殺人はすべて、出題者の手で実行ずみの現実に起きた殺人なのである……。
リアル殺人ゲームの行き着く先は!?
歌野本格の粋を心して堪能せよ!
殺人推理ゲームが進んでいく。
トリックが見え隠れしながら
進んでいく。
どんでん返しというよりは
「えーーー!!」どうなるの?
「こんな終わり方ってあり⁉️」
あなたもラストで呟いているはず。
次作があるので、ここから
どう続いていくのか楽しみです。
④ずっとあなたが好きでした (文春文庫)
恋こそ、最大のサプライズ・ミステリー!?
文藝春秋BOOK
バイト先の女子高生との淡い恋、美少女の転校生へのときめき、人生の夕暮れ時の穏やかな想い……。一筋縄でいかない恋愛小説集!?
「二度読み必至」を超えた、三度読み推奨ミステリー! あなたはこの企みを見抜けるか!?
年齢を偽ってスーパーでアルバイトする中学生の大和。バイト仲間の高校生・三千穂といい雰囲気になったが、正社員の宗像主任が露骨に2人の邪魔をする(「ずっとあなたが好きでした」)。
脱サラして立ち上げた会社が倒産、妻にも逃げられた五十嵐は、富士の樹海でネットの自殺サイトで知り合った男女と集団自殺をはかるドライブに出る。しかし、自殺仲間の一人、仁木智子に恋心を抱いていることに気づき(「黄泉路より」)。
弓木が通う小樽の小学校に東京から転校生がやってきた。人形のようにかわいく、裕福な生活を送る有坂弥生。風邪で休んだ弥生にプリントを届けにいった弓木は、彼女の部屋にも入る機会を得たのだが、思いがけずネックレスを持ち出してしまい……(「遠い初恋」)など13作を収録。
恋をめぐる小説集……だが?
サプライズ・ミステリーの名手が書く恋愛小説集が一筋縄でいくはずがない!
この企みに気づいた瞬間、あなたはまた最初から読み直したくなる。解説:大矢博子
歌野晶午ならではの
文章構成と伏線を楽しむ本です。
単純に恋愛小説を楽しみたい人や
伏線・仕掛けに興味が無い人には
向いていない本です。
ちょっと分かりにくい
仕掛けがある本です。
1話、2話で本を閉じるかもしれません。
その時は巻末の大矢さんの
解説を読んで下さい。
「あーなるほど。
そういう仕掛けがあるのか」
と再び興味が湧いてきます。
まとめ
4冊を、通して見てみると。
気づくことがあります。
歌野晶午は、毎回ちがう入口から、
同じ場所に連れていく。
葉桜は、長編まるごとを使って。
Dの殺人は、乱歩の名作を借りて。
密室殺人ゲームは、推理の遊びに見せかけて。
ずっとあなたは、恋の話のふりをして。
入口はばらばらなのに、
出口では、いつも世界が変わる。
警戒させない。むずかしくしない。
やさしいまま、足元だけを入れ替える。
だから読み終えたあと、
最初のページに戻りたくなる。
同じ文字が、もう別の顔で並んでいる。
やられた、と思いながら、なぜか清々しい。
それが、歌野晶午という作家です。
念のため、実績も置いておきます。
『葉桜の季節に君を想うということ』は、
2004年の本格ミステリ大賞、
第57回日本推理作家協会賞を受賞。
「このミステリーがすごい!」でも
第1位に輝いた名作です。
そして『密室殺人ゲーム2.0』で、
2010年の本格ミステリ大賞。
頂点を獲っている作家です。
最後に、すこし話が変わります。
歌野さんの”裏返し”が 好きになった方なら。
きっと、もう一人の名手も 気になるはずです。
“どんでん返しの帝王”、 中山七里さん。
歌野さんがじっくり 仕掛けるタイプだとしたら。
中山さんは、次から次へと 畳みかけてくるタイプ。
同じ”だまされる快感”を、 また別の角度から味わえます。

最後に、ひとつだけ。
さっき、葉桜のところで
「これは本でしか無理やわ」と書きました。
私は、本気でそう思っていたんです。
ところが、調べてみて、驚きました。
その葉桜が、音になっていた。
朗読つきの、オーディオブックとして。
しかも、聴いた人の評価は、割れています。
理由は、はっきりしていて。
この本は、あの仕掛けを成立させるために、
冒頭からしばらく、きわどい描写が続きます。
そこで戸惑って離れる人がいる。
でも、好き嫌いは出る部分ですが。
仕掛けそのものの、一部なんです。
そこを越えれたら、
中盤から後半で、見事なぐらい
一気に回収されていきます。
正直、人を選ぶ1冊です。
はじめての1冊にはおすすめしません。
まずは活字で、と私は思います。
でも、一度くぐり抜けた人なら。
種明かしを知ったうえで、耳で2周目を楽しんでください。
それは、覚悟のある人だけの、贅沢です。

※配信状況・無料期間・料金は変動することがあります。 最新の条件は公式サイトでご確認ください。
歌野晶午さん以外の”どんでん返しの名手”も気になったら。
麻耶雄嵩・中山七里・伊坂幸太郎など、
当ブログで紹介してきた”どんでん返しの名手”たちを
まとめてご案内する記事も用意しています。
→ どんでん返しの名手は、この4人から。50代のためのミステリー案内

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